東京高等裁判所 平成6年(ラ)529号 決定 1994年8月10日
主文
一 原決定を取り消す。
二 本件を東京地方裁判所に差し戻す。
理由
一 本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
1 登録する方法による仮差押えの執行がなされている自動車について、仮差押えの本執行として強制競売を申し立てた債権者は、民事執行規則一七六条二項、一七四条二項を類推適用して、仮差押執行後に自動車の占有を取得した者に対し、その自動車を執行官に引き渡すべき旨の引渡命令の申立てをすることができるものと解するのが相当である。その理由は、原決定の理由中の「3 当裁判所の判断(1)」(原決定三枚目七行目から同四枚目一八行目まで)の理由説示と同一であるからこれをここに引用する。
2 そして、本件記録によれば、抗告人は、平成五年六月七日、東京地方裁判所に対し、相手方(債務者)株式会社乙田に対する売掛代金債権七二一万円を被保全権利として、同相手方所有の本件自動車(原決定別紙自動車目録記載の自動車)を仮に差し押さえるとの裁判を求める仮差押命令の申立てをし、その旨の仮差押決定がなされて、同月一一日自動車登録原簿に右仮差押えの登録がなされたこと、その後同年八月三一日、本件自動車の登録原簿上の所有者名義が相手方株式会社乙田から件外丁原竹夫に移転登録されたが、相手方(占有者)丙川松子は、同年一〇月一日丁原から本件自動車を購入してその占有を取得し、現在これを占有していること、抗告人は、その後相手方株式会社乙田に対する債務名義(小切手請求事件の確定判決)を取得した上、平成六年三月一八日、本件自動車につき、同相手方を債務者として本件強制競売の申立てをするとともに、相手方丙川松子に対する引渡命令の申立てをしたことがそれぞれ一応認められる。
右認定事実によれば、相手方(占有者)丙川松子は、本件自動車についての仮差押えの登録後に、その所有者名義の移転登録を得た丁原から更に本件自動車を買い受けてその占有を取得したものであり、仮差押えにより制限される処分行為によつてその占有を取得したものというべきであるから、特段の事情がない限り、仮差押えの本執行として強制競売を申立てた抗告人に対しその占有権原を対抗することができないものと一応いうことができる。なお、本件記録上、右特段の事情があることを認めるに足りる資料はない。
そうすると、本件においては、本件自動車の占有者である相手方丙川松子が同規則一七四条二項にいう「申立人(抗告人)に対抗することができる権原を有しない」ことについての疎明があつたものというべきであり、右の点についての疎明がないとして本件申立てを却下した原決定は、その余の点について判断するまでもなく取消しを免れない。
三 よつて、原決定を取り消し、本件申立てにつき更に審理をさせるため、本件を原審に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 丹宗朝子 裁判官 市川頼明 裁判官 斉藤 隆)